保護者が本当に見たいのは「きれいな映像」ではなかった ── ある先輩の言葉と、公園のお母さんが教えてくれたこと

目次


日々、良い映像を届けたい。

スクールの撮影に携わっている方なら、きっと同じ思いをお持ちではないでしょうか。行事のたびに機材を担いで現場に入り、子どもたちの一瞬一瞬を逃すまいとファインダーを覗く。編集では1カットずつ丁寧に仕上げ、保護者の手に届いた時に「良かった」と思ってもらえるよう、心を込めて作品を作る。

私もそんな撮影業者の一人として、18年間この仕事を続けてきました。年間150日ほどの撮影、50本近くの映像制作。たくさんの園や学校にお世話になりながら、1本1本に思いを込めてきたつもりです。

ただ、正直にお話しすると、かつての私は大切なことを見落としていました。

幼稚園の発表会でビデオカメラを構えるカメラマンの後ろ姿。ステージ上でカラフルな衣装の園児たちが演技し、客席の保護者が見守る明るい体育館

「きれいに撮れば喜んでもらえる」── かつての私の壁

撮影業者として駆け出しの頃、私が考えていたのはとてもシンプルなことでした。

「きれいに撮れば売れる」。

露出を合わせ、構図を整え、ブレのない安定した映像を撮る。編集ではテンポよくカットをつなぎ、BGMを乗せて見栄えの良い作品に仕上げる。それがプロの仕事だと信じていましたし、実際にそれなりの評価もいただいていました。

でも、あるとき気づいたのです。「きれいな映像」と「保護者が本当に見たい映像」は、同じではないかもしれない、と。

そのきっかけをくれたのは、ある先輩の一言でした。

「そういうことじゃないんだよね」

キャリア2年目の頃、写真撮影会社の営業をされていた滝沢さん(仮名)という方と一緒に仕事をする機会がありました。50代のベテランで、学校の先生方からの人望がとても厚い方です。

ある幼稚園の発表会でのこと。私はステージ正面でカメラを構え、本番の演目をしっかり記録することに集中していました。ふと視線をずらすと、滝沢さんが舞台袖でハンディカムを持って何かを撮っています。

舞台袖は暗く、照明も当たらない場所です。「滝沢さん、あんな暗い場所で何を撮っていたんですか?」
若さゆえの率直な質問をぶつけました。

滝沢さんはこう答えました。

「保護者さんたちは、見えない部分が見たいんだよ。本番をしっかり撮ることはもちろん大切だ。でもね、本番の姿は保護者さんたちも客席から見えているだろう? 舞台袖で出番を待つ子どもたちの緊張した顔——それは保護者には絶対に見えない。ほんの少しでも、そこを映してあげるだけで、作品の質がぐっと変わるんだ」

発表会の舞台袖でカーテンの隙間からステージを覗く園児たち。カラフルな衣装を着た子どもたちが緊張しつつもわくわくした期待に満ちた笑顔を見せている

正直に言うと、その場では半信半疑でした。
暗い映像を混ぜて、作品として成立するんだろうか、と。
けれど瀧さんの言葉はずっと頭に残りました。

それからしばらくして、DVDのジャケットデザインを考える機会がありました。「子ども向けだからポップで派手にしよう」と、家電量販店に行ってプリ〇ュアや仮〇ライダーの市販DVDパッケージを研究しました。キラキラしたエフェクト、カラフルな配色。
「こういう感じだな」と思い、瀧さんに相談しました。

「派手でカラフルな感じがいいですかね?」

瀧さんはひとこと、こう言いました。

「そういうことじゃないんだよね」

また同じ言葉。でも今度は、その意味が少し分かる気がしました。舞台袖の話と同じだ。「見栄えの良いもの」が正解じゃない。保護者が本当に見たいのは——。

「わが子」だ。

派手なエフェクトでも、おしゃれなデザインでもない。
保護者にとって一番うれしいのは、自分の子どもの顔がそこにあること。
であれば、1人1人の写真を使ったジャケットを作ったらどうだろう。
そんなアイデアが浮かびました。

公園のお母さんが教えてくれたこと

とはいえ、本当にそれが保護者に響くのかは分かりません。思いつきを確かめるために、知人のお子さんの写真を借りてサンプルのジャケットを試作しました。子どもの写真、仮タイトル、名前。プリ〇ュアのDVDと並べると、ずいぶんシンプルな見た目です。

そのサンプルを持って、近所の公園に向かいました。ベンチでお子さんを遊ばせている複数のお母さんに声をかけ、「幼稚園のビデオのパッケージがこんな感じだったら、どう思いますか?」と聞いてみたのです。

「そりゃ買うわよ!」

即答でした。そしてすぐに、こうも付け加えられました。

「でも、これのせいで値段が上がるなら、いらないかな」

リアルな声です。園児1人1人の写真を選び、補正して、名前を入れ替えて、1枚ずつ印刷する——正直に言えば、とんでもなく手間がかかります。
実際に取り入れたうえ最初の頃は、ジャケット制作と印刷だけで丸2日かかりました。

でも、あのお母さんの「そりゃ買うわよ!」は本物でした。やる価値はある、と確信しました。

悩んだ末に出した結論は、「コストを吸収できる商品にだけ採用する」ということ。
幼稚園の3年間の行事を撮り貯め、収録した集大成ディスク3枚組——いわば「幼稚園生活の宝箱」のような少し価格の高い商品に限定して、個人ジャケットを導入しました。

結果、保護者からは「買わないなんて無理」「一生宝物にする」といった声をいただくようになりました。

園児の写真がデザインされたオリジナルDVDジャケットを手に取り、笑顔で眺める母親。明るいリビングで大切そうに持っている

同業の方にこの話をすると、驚かれます。でも「自分もやろう」とおっしゃる方は、正直なところほとんどいません。手間がかかりすぎるので、当然のことだと思います。

ただ、大切なのはジャケットを真似することではないと思っています。滝沢さんが教えてくれた問いそのもの——

保護者が本当に欲しいものは何か? もっと言えば、保護者自身もまだ気づいていないけれど、手に取ったら絶対にうれしいものは何か?

この問いを持ち続けること自体に、大きな意味があるのだと感じています。

この問いが、その後のすべてを変えた

滝沢さんに学んだこの視点は、ジャケットだけでなく、その後の撮影や編集のあり方にも影響を与えました。

たとえば、「子どもが画面に映る時間を1秒でも長くするための編集手法」や、「カメラの前で子どもたちが自然と笑顔になる仕掛け」。いずれも「保護者が本当に見たいものは何か」という問いから生まれた工夫です。これらの具体的なテクニックについては、また別の機会に詳しくお伝えしたいと思います。

どの工夫も、出発点は同じです。「きれいに撮る」のさらに先にある、「本当に届けたいもの」は何か。この問いを持ち続けたことで、1本1本の作品への向き合い方が変わりました。

しかし同時に、もどかしさも大きくなっていったのです。

届けたいのに、届けきれないもどかしさ

撮影や編集の工夫で「保護者が見たいもの」に近づくほど、ある限界が見えてきました。

DVDという器の限界です。

滝沢さんが撮ったような舞台袖の映像。劇の練習を頑張る子どもたちの日常。入園したばかりの頃のあどけない表情。本当は全部届けたい。でも、DVDの収録時間には限りがあります。
「入れたいけど入らない」と泣く泣くカットした素材は、この18年間で数えきれないほどあります。

同じような経験をお持ちの方も、きっといらっしゃるのではないでしょうか。

そしていま、DVDという形態そのものを取り巻く環境が大きく変わりつつあります。DVDプレイヤーを持たない家庭が増え、少子化の波も確実に押し寄せている。
何より、撮影以外の作業——ディスクの焼き込み、ジャケット印刷、梱包、発送——に費やす時間と労力が、私たちが本来集中すべき「撮影」や「編集」の時間を圧迫しています。

「もっと良いものを届けたい」という思いはある。技術も経験もある。でも、物理的な制約や作業負担が、その思いに蓋をしてしまっている——。そう感じている方は、少なくないのではないかと思います。

同じ思いを持つ方へ

私がたどり着いた答えの一つが、VOD(ビデオ・オン・デマンド)による映像配信でした。

尺の制限がなくなれば、滝沢さんが教えてくれた「見えない部分」を、もっと自由に届けられる。
物理メディアの制作・発送作業から解放されれば、撮影と編集——つまり私たちの本業に集中できる。保護者はスマートフォンからいつでも映像を見返せる。

そんな思いから、ピクトミナVODというプラットフォームを立ち上げました。

これは「DVDをやめましょう」という話ではありません。地域やお客様によって最適な届け方は異なりますし、DVDに愛着を持つ保護者の方がいることも理解しています。
ただ、もし「もっと良いものを届けたいのに、物理的な制約がそれを阻んでいる」と感じているなら、VODという選択肢があることを知っていただけたらと思います。

保護者が本当に見たいもの。それを一緒に考え、一緒に届けていける仲間が増えたら——。
撮影業者として、これほどうれしいことはありません。

ピクトミナVODでは、同じ志を持つ撮影業者の方をパートナーとしてお迎えしています。ご興味をお持ちいただけましたら、お気軽にお問い合わせください。

壽田剛プロフィール写真

この記事を書いた人

壽田 剛(すだ たけし)

株式会社ピクトミナ 代表。長年、幼稚園・保育園の行事を撮影し、DVD/Blu-rayの制作・販売を行う撮影業者として活動。高い購入率を維持してきた実績を持つ。DVD制作の非効率を解消し、撮影業者が本業に集中できる環境を作るため、行事映像のVOD配信プラットフォーム「ピクトミナVOD」を自ら開発・運営している。

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